石井 昭 著   『ふるさと横須賀』


海軍機関学校クラブ @  『自宅を生徒に提供』
原文

市内稲岡町、今の神奈川歯科大学一帯に海軍機関学校があったのは、明治二十三年(1890)の第一期生から大正十二年(一九二三)の第三十三期生まで。震災後は江田島(広島)の海軍兵学校へ、さらに舞鶴へ移り、終戦を迎えている。 この機関学校生徒のクラブとして楠ケ浦(今の米軍基地内)の自宅を提供された島森積(せき)さんに、ご存命中うがったお話を。 積さんは明治十六年(一八八三)生まれ、昭和五十年九月に九十三歳で永眠。品のある話しっぶりが印象的。ご家族は汐入町二丁目の高台にお住まい。 「ここのおばあさんがー期、三期、七期の皆さんをお世話したところで病気なられー時、クラブをやめました。その後、私たちがお世話しました。私がお世話したのは十六期、二十期、二十三期、二十七期、三十期、三十三期の皆さんでした。間があるのは、よそのお宅がお引き受けしています。同期の皆さんを入学から卒業まで休日だけ、お世話するのです。 いつでしたか。二十三期のクラス会に招待されました。八十歳近いお年で、わざわざ横須賀でおやりになって、皆さんが『おばさん、おばさん』と私の手足を押さえ、大騒ぎをしてくださるのですよ。あんなにおじいさんになっちゃって。もっとも私も、だいぶおばあさんになりましたが。 初めにお世話した十六期の方は、五十人でしたが、大正末の三十三期は、倍の百人。八・八艦隊計画のために増員。週にー日の外出、ご自分の家のように振る舞われるので、近所の方からは『おことわりしなさい』といわれましたが。 でも、お世話し続けました。そのおかげでしょうか、近ごろのクラス会では皆さん、『おばさんは母と同じだよ』といって下さるのです。ありがたいことです。」 なお、この機関学校で一時、作家の芥川龍之介が、英語の教官を務めた。
原本記載写真
海軍機関科の幹部養成を目的とした機関学校は、明治から大正の間、今の神奈川歯科大学の所にあった。第3期生まで巣立ったが、芥川龍之介は大正の中ごろ、市内汐入町に住み、英語の講師を務めた。写真は、機関学校の校門

海軍機関学校クラブ A 『歌や碁で楽しむ』
原文

「いつでしたか。二十三期のクラス会に招待されました。八十歳近いお年で、わざわざ横須賀でおやりになって・・・」とは、楠ケ浦の自宅をクラブにされた島森積(せき)さんの生前のお話。 そのニ十三期とは、明治四十四年(一九一一)一月に五十人が入校、大正三年(一九一四)一二月に四十四人が卒業。今ご健在な方は次の五人の皆さん。力ッコ内は、お住まいと終戦時の階級である。 佐伯甚七さん(東京都目黒区、海軍少将)、早川倉治さん(逗子市逗子、海軍少将)、山口信助さん(東京都杉並区、海軍中将)、森田貫一さん(東京都世田ケ谷区、海軍中将)、三原会三さん(大阪市、若くして退役>。  そこで、逗子市にお住まいの早川倉治さんにお話をうかがった。 「機関学校のグラウンドで教練中、楠ケ補の磯から、漁船が旗を立てて出て行く姿が見えました。 島森さんのお宅は網元だったのでしょう。柿(かき)の木がありました。 お世話になりましたねえ。毎週日曜日におじゃまして、くつろぐのです。同期の岡田行二というのが歌がうまくて〃おい歌え〃 。尺八を吹いたり、碁をやったりしました。 そこを足場に、腹ごしらえのあとは散歩でした。観音崎、大楠山、二子山などよく行きました。歩くのが楽しみでした。三年三カ月の間、面白半分にー回だけ、馬車に乗りました。 三崎へは自転車を借りて行きました。夕方、クラブヘ戻ってから帰校という訳です。大津の射撃訓練のときは、平坂を登り聖徳寺坂を下り、帰りは創立間もない県立横須賀中学の前、法塔十字路、佐野、平坂上、大滝町を通つたこともあります。 クラブのおぼあさんから、機関学校の大先輩の話を聞くのも楽しみでしたね。 三期の栗田富太郎、この人は広瀬中佐の報国丸の機関長でした。クラブで、若い私らは育てられました。貴重な体験でした」。 早川さんのお話は、クラブの娘さんと一期下の後輩との結婚、海軍での交友録など、と話は尽きない。 「長寿の秘けつは」とうかがえば「フイリピンの山中で死んだのも同然。自然に身も心も任せている」。キリッと口を結ばれた。
原本記載写真
昭和6年9月に海軍機関学校23期のクラス会が開かれた。写真は、前列右端が招待された島森積(せき)さん、その左側が、逗子市逗子にお住まいの早川倉治さん(終戦時は海軍少将)=横須賀市佐野町3ノ32 白根貞夫さん提供

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