石井 昭 著   『ふるさと横須賀』

詩「水兵」 『ペンギンにたとえ』
原文
 横須賀は甲鉄の港だ。海底のやうに夜があけて 往来がきれいな波間に見え 早起きの水兵が錨のや うに両手をふり 華麗な日の出に埋もれながら歩いてくる  海軍はあざやかだ。  ペンギン鳥が金モールをつける 勢ひが満悦してくる 世界の海原を歩いてくる  若い水兵は二、三人づつ 少し年をとったのは自由に一人で 市街を清め、 天気を醒(さ)ましにどしどしやってくる。  太洋の情熱があらはれる 笑ひながら爽(さわ)やかな眼つきで艦体をそろへ、 意装を調練し 旋風機の真鍮(しんちゅう)色をして 新らしい鴎(かもめ)の散歩をはじめる。  まるで母に引廻される愛らしい猛獣のやうに、きれいな無理の法則にしたがって 一定の旋律に支配され 時間で出て来て、又時間で引上げる  別に用のない者もあり用のあるのもある 歩きたくない者も何も見たくない者も  みんな本能で町の光りにうかみ出して来て 東西を歩き廻り、ぐるぐる心をほどいて  又真青な海の兵舎へ 夜といっしょに引あげてゆく 永く大洋にゐたものは  どんなに陸といふ青い大きい地の船へ とびのってかけづり廻って見たいか  陰気な陸兵はあるが ぼんやりもそもそした海兵はない  さういふ風に水兵があっちからこっちからもくる どんどんかはる、規則立って行ちがふ  大きいのもあれば子供のやうなのもあり…(後略)  作者の佐藤惣之助は明治二十三年(一八九〇)生まれで、昭和十七年に五十二歳で没。 川崎市出身で俳句から詩の世界に入り「白樺派」のヒューマニズムに情熱を傾けたが、 晩年は東洋風な風趣に目覚めざめた作品を発表。「赤城の子守唄」など歌謡曲にも足跡を残した。 この「水兵」は大正九年(一九二〇)−に発表されたもの。 水兵をペンギン鳥に、士官をツバメに たとえながら、まとめたところが興味深い。

原本記載写真
詩人の佐藤惣之助は、大正9年(1920)に「水兵」を発表。 その中で水兵をペンギン鳥、士官をツバメにたとえた。写真は、改築前の海軍下士官兵集会所を出入りする水兵たち (昭和10年ごろ)

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