石井 昭 著 『ふるさと横須賀』
| とっぴきぴー ① 『素朴さにじみ出る』 |
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夏の日差しに房総半島・鋸（のこぎり）山の稜（りょう）線が光る。ここは横須賀市鴨居の港である。 古くから鯛（タイ)釣りの漁場として、房総へ渡る船出の場として名高い。 鴨居の夏祭り。腰越から脇方(わきがた)の浜への宮みこしの渡御は壮観だ。 とっぴきびー踊りは約百五十年前の文化、文政のころ脇方に伝わった、という。 戦時中、途絶えたが戦後すぐ復活。昭和四十九年六月に、横須賀市無形民俗文化財に指定された。 この踊りは里神楽（かぐら)のお面を用い囃子(はやし)のりズムで踊る。せりふはない。手ぶり身ぶりが、 情景を細やかに表現する。磯（いそ）の香り土のにおいの濃い素朴さがにじみ出る。 昔から今の鴨居三丁目、八幡神社に合祀（ひ)された須賀神社に大漁満足、五穀ほうじょうなどを祈願するために奉納した、といわれる。 とっぴきびー踊り保存会長の岡田守三さんにうかがった。 「昔は囃子方ならだれでも、演技ができました。今は型が決まった感じですが、私ら子供のころは祭りの昼どきに、余興 として思い思いの個性で演じられたようです。まあ私らが戦後のー代目なら、今の現役の皆さんが二代目、そして昨年か ら仲間入りした中学生たちが三代目でしょうか」 とっぴきびー踊りは、獅子（しし)舞いを中心に「狐(きつね)とり」「餅（もち)つき」「鯛つり」「獅子退治」など。 どの演題も主役は「ひょっとこ」と「ばか」の二人。脇役は「えびす様」「おかめ」「狩人(かりうど)」「狐」「鬼」など。 囃手(はやして)は大太鼓一人、小太鼓二人、鉦(かね)一人、笛一人の構成で、曲目は祭りぱやし、ばかばやしが主。 今年の夏祭りは七月二十一日、二日だ。二日目の午前十時半ごろ大室(むろ)港へ。 はやし船、みこし船、付き添い船など他の町内会の船も含めて約十五隻の船団が訪れる。 踊りは船の上だ。そのあと午後一時半ごろから、脇方へ戻って浜辺で熱演。 毎年、誘い合わせて訪れ、とっぴきびー踊りに魅せられる人たちがふえている。 |
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| 魅せられた人たちがふえた。とっぴきぴー踊りは約１５０年前の文化・文政のころ、今の横須賀市鴨居の脇方(わきかた)に伝わったという。 写真は、踊りに用いる里神楽(さとかぐら)のお面で、江戸時代の作との話 |
| とっぴきぴー ② 『江戸時代の面つけ』 |
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横須賀市鴨居の脇方(わきがた)のとっぴきぴー踊りのーつ「餅(もち)つき」を紹介しよう。 登場人物は「ひょっとこ」「ばか」「おかめ」「鬼」「狩人(かりゆうど)」だ。 年の暮。あちこちから威勢のよい餅つきの音が聞こえる。「ひょっとこ」は臼(うす)を、「おかめ」は湯気の立ったせいろ を抱え、しんがりに「ばか」が杵(きね)を担いで登場。庭で餅つきが始まる。 杵を打ち下ろす「ひょっとこ」、手返しをする「おかめ」。二人とも呼吸はピッタリ。 「ばか」は座り込んで見物役。餅つきの途中「ひょっとこ」の目を盗んでは、餅をつまみ食いする。 餅をほおばりすぎた「ばか」は、餅をのどにひっかけ目を白黒。「おかめ」が気づき「ひょっとこ」に教える。 「ひょっとこ」は「ばか」の背中に回り、さすったりたたいたり・・・。 やっと餅がとれた。さて、餅がつき上がったころ突然「鬼」が現われる。三人は慌(あわ)てふためき、 腰を抜かした「ばか」を引きずるようにして難を逃れた。「しめ、しめ」とばかりに鬼は、つき上がった餅を日ごと持ち去る。 そこで「ひょっとこ」は村一番の「狩人」を頼んで鬼退治ときた。 先頭を行くのは案内役の「ひょっとこ」、次いで「狩人」、しんがりは「ばか」。やがて、臼を抱えた「鬼」を発見した。 ここで、「狩人」は、ねらい定めてズドンとー発。見事に命中。「ひょっとこ」も「ばか」も、してやったりと大喜びで、めでたし、めでたし。 脇方のとっぴきびー踊りは皆さん、面をかぶる。面は木製。江戸時代のものだ、という。保存会長の岡田守三さんにうかがった。 「もちろん、作り人知らずです。面は原木をくり抜いたものですから、今のに比べ、それなりの面影が・・・。素朴で厚みがあり、いくらか重みもあります。 保存会の宝で先人同様、次の世代へ伝えますよ」 |
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| とっぴきびー踊りの「餅つき」 は『何回見てもホロリとするーと語るファンがいる。写真は、左から「ばか」「ひよっとこ」「おかめ」。 そこへ「鬼」や「狩人」が登場する=横須賀市鴨居の脇方で、演ずるのは保存会の皆さん |
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