石井 昭 著   『ふるさと横須賀』

浦賀虎踊り @ 『歌舞伎も採り入れ』
原文

横須賀市西浦賀町の浜町に伝わる「浦賀の虎(トラ)踊り」は、虎のしぐさだけでなく、歌舞伎や唐人踊りを採り入れ た珍しい民俗芸能である。享保五年(1720)に奉行所が伊豆下田(静岡県)から浦賀へ移った時、伝えられた、という。 すでに今年でニ百六十四年の伝統を持つ。県指定の無形民俗文化財。
近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)「国性爺(こくせんや)合戦」に登場する和藤内(わとうない)が、日本から唐(中国)に渡り、 明(みん)朝の再興を図る途中、竹林でトラを生け捕り、それに唐の子供たちの踊りを組み合わせたもの。 トラは親子のニ頭。親トラには青年、子トラには子供がニ人ずつ入り、武将姿の子供の和藤内と三味線、笛などのはやしに合わせて踊る。 ヒゲをたくわえた大唐人や女の子が演ずる唐子たちが彩りを添えて楽しい。  開幕だ。はやしが流れる。床几(しようぎ)から立ち上がった和藤内が床を踏みならし「トラ狩りの間、踊りのー手 (ひとで)が所望じゃ、所望じゃ」。大唐人に率いられた唐子たちが踊る。単純な動作が、かえって光る。
歌詞は「テレレツ」「レゲール」「チャチャラ」など。
「テレレツ」は「伊勢ノ神風ホドヨク吹ケバ浦賀湊(ミナト)ハ船バカリ」といった歌詞。 「レゲール」は「レゲールカンロンオース エンエン ブツブツ」で始まり、「チャチャラ」は「チャチャーラ、チャチャーラ、チンカラケンブリ、 オケケンケラケン」で始まる。 このニつは解読されていない。
踊りが終わる。いよいよトラの登場だ。曲目は「虎返し」「一本杉」「シッチョイ」「鶴の餌拾い」「谷渡し」「逆飛び」など。 トラは胴が重く風通しも悪く、重労働である。やがて、和藤内が立ち上がり、トラのかしらを押さえ、右手の叶(かのう)神社のお札を差し上げ 「アリャアリャ、ありがたや、叶明神の威徳をもって、トラもやすやす従えたり。みなみな勇んで、力ッピキュー」と、みえを切る。 トラは、あとずさりして、幕が下りる。
原本記載写真
浦賀の虎踊りは、横須賀市はまゆう会館のこけら落とし、横浜のみなとみらい21、静岡県下田の黒船祭、県や市の民俗芸能大会など で、熱演。写真は、和藤内がトラのかしらを押さえた所=西浦賀町、為朝神社の祭礼で

浦賀虎踊り A 『各地に招かれ熱演』
原文

横須賀市西浦賀町の浜町町内会は百三十世帯。虎(トラ)踊り保存会を支える。 町内会長で保存会長を兼ねる筑川一郎さん(六三)にお話をうかがった。 「大トラ、小トラの新人を育成中です。大トラですが、本番に使うかしらは弘化二年(1845)の作、 胴は昭和八年に贈られたものです。昔の胴は、ばらしておき、出演の時に組み立てました。為朝(ためとも)神社の祭礼は、 今年は六月十六、十七日。虎踊りは十六日の夜の予定です。 現役の最年長は笛の高畑惣士吉さん(七八)、最年少は唐子の幼稚園児たちで五歳です」。 昨年九月の第四回横須賀民俗芸能大会での出演者は、次の三十六人。 虎使い−(大虎)松井利明、山本富美雄、飯田兼久、宮本一光、(小虎)黒川延夫、長島健、高橋純吾。 和藤内−紙谷保明、大唐人−安藤庄一。唐子−江川和枝、江川暁子、吉井昌代、宮本光子、泉山昌代、 泉山純代、野田昌枝、山本由紀、村岡牧子、紙谷愛。鉦(かね)−杉沢朝次郎。唄−紙谷マツ、筑川はる江。 笛−高畑惣吉、江川春一、江川由雄、相沢敏雄、江川和夫、野田訓弘。 太鼓−浅葉金太郎、進藤勲、角井正夫。三味線−角井サタ、飯田アキ、角井よね子、村岡百合子、江川三枝子の皆さん。  メンバーの中には”トラ踊りー家”も。会長の筑川さんご自身、江川春一さんと昭和四年に和藤内を演じたし、奥さんの はる江さんは唄で現役といった具合。昨年は、横須賀市はまゆう会館のこけら落とし、厚木市の民俗芸能大会、 横浜市のみなとみらい21、下田市(静岡県)の黒船祭りなどに招かれて熱演。下田へは浦賀虎踊りが二百六十四年ぶりに里帰りした訳。 南伊豆町小稲(こいな)の「虎舞い」との共演は、会場を沸かせた。 なお、横須賀市内では先ごろ野比地区で中学生による「虎踊り」が復活、将来が楽しみだ。 久里浜の天神社には、トラのかしらが残っている。全国的にみて虎踊りの類は、熊本県の阿蘇神社、香川県の白鳥町、長野県の須坂市、 東北の三陸海岸などに、形こそ異なれ、伝えられている。
原本記載写真
本番に使うトラのかしらは弘化2年(1845)の作、トラの胴は昭和8年のものという。写真は、昭和4年9月15日、 西叶(かのう)神社の祭礼に出演した子供たちと、当時の区(町内会)役員の皆さん

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