石井 昭 著   『ふるさと横須賀』


横須賀造船所 @  『4千トンの建造能力』
原文

工作機械は、オランダ製かフランス製だった。そのうち、スチームハンマー六基は 慶応元年(1865)、オランダから購入した。現存しているのは、次のニ基である。 一基は容量が三d、ダブルフレーム。今なお米海軍基地のSRF(艦船修理部)で活動中。 もうー基は容量が0・五d、シングルフレーム。「一八六五年・ロッテルダム」の銘記があり、 横須賀市博物館構内に保存されている。 当時の製鉄所勤務の日本人は、決して受け身ではなかった。そのー例が、稲垣喜多造、 熊谷直孝らのフランス留学。「横須賀海軍船廠(しょう)史」によると、 「明治四年七月八日、工部省ハ造船所員稲垣ヲ仏国二派遣シテ会計法ヲ研究シ且(カツ)造船所用品 購入ノ事務ヲ管理セシム」とある。ウェル二ーは、稲垣に「マルセイユ着港後、郵便ノ同港二達スル毎(ゴト)二横須賀ヨリ注文品状ヲ調査シ …」と指示している。 明治四年といえば、第一号ドックが完成された年である。ドックは石積みで、全長百十九b、幅二十五b、深さ九bで、 能力は四千d。国宝級だ、と専門家は高く評価。 わが国初の軍艦「清輝」がハ年三月に明治天皇をお迎えして進水した。 当時の造船台は、かつてのガントリー・クレーンの下あたり。 この艦は当初、二千六百dを計画したが、途中で資材が不足してしまい、 やむなく約九百dに縮少。 進水式で、明治天皇はウェルニーに感謝の意を表された、という。 所内の教育に目を向けると、技術伝習生徒や織工生徒が挙げられる。 伝習生は、慶応二年(1866)から採用、翌三年には、奥詰銃隊の羽太栄次郎のニ男、恒三郎ら四人が選ばれた。 また、職工生徒のほうは、地元の各村から十歳以上の少年を募集したが、 応募したのは横須賀村農民、勝石衛門の長男ら九人に過ぎなかった。 もうーつは、「學舎(こうしゃ)」と呼んだ技術学校の新設だ。明治三年(1870)のことである。 学則は、県設立漢英仏学校の規則書を参考にして定めた。
原本記載写真
横須賀市汐入町、臨海公園に立つ。今の米海軍基地側の右手に第1号ドックが見える。 このドックは明治4年(1871)に完成された。写真は、市博物館に残るオランダ製、 シングルのスチームハンマー。ダブルスのほうは今なお現役で活躍中

横須賀造船所 A  『職工数うなぎ上り』
原文

明治三年(1870)に新設された技術学校、「學舎(こうしや)」の学則の一部を紹介しよう。 「第二条 入学志願者ノ年令ハ十三、四歳以上二十歳迄(マデ)ヲ限りトスレドモ、 資性英敏若(モシ)クハ修学ノ経歴アル輩(ヤカラ)ハ特二此(コノ)制限二拠(ヨ)ラザルコトアルベシ。 第三条 在学中ハ修学用器具、書籍、筆墨紙、及ビ食料ヲ官給トシ、衣服其(ソノ)他生徒自身二属スル費用ヲ 保証人 ノ支弁(ベン)トス」。 校舎は、裏門内に新築された。学習内容は、フランス人技術者からフランス語や、機械の使用方法を、また、 日本人教師からは漢文などー般科目を学んだ。 この學舎のユ二ークな存在は、教育史上からも注目されている。なお、職場から選抜された者を対象に、 職工学校も開校された。 工員数は年々、増加した。明治元年は四百二十三人、七年には千八百二十五人。 七年間で四倍以上に膨れ上がった、という。彼らの給料は−。明治五年の記録によると、 一等頭目が三十八銭、二等頭目が三十六銭で、ともに玄米一升が付く。 差配方が三十四銭、一筆平職が三十二銭、二等平職が三十銭、三等平職がニ十八銭。 給料日は「毎月十八日二其月ノ前半額ヲ交付シ、翌月三日二前月ノ後半額ヲ支給」と定められていた。 製鉄所は、四年に「造船所」と改称されたが、翌五年には「職工規制」が制定、 そのー項目を、原文のまま記してみると 「一。職工及人夫毎朝入場後、直(タダ)チニ工場ヲ脱出シ午餐停業ノ頃、混雑二粉レテ帰場スル者ハ厳密ノ訊問ヲ経テ 午後三時間、改札場ノ木杭二縛置シ其側(ソバ)二犯罪者ノ姓名及附属工場ノ名ヲ記シテ之(コレ)ヲ懲罰スベキノミナラズ、 脱出中ノ時間二応ジテ一日苦(モシ)クハ数日間ノ給料ヲ減ズベシ」とあり、規制の厳しさがわかる。 片やフランス語に近代技術、片や幕府時代並みのお仕置き、ということで 明治初めのー面をかいま見た。
原本記載写真
横須賀製鉄所は、明治4年(1871)に横須賀造船所と改称。翌5年には「職工規制」が制定された。 当時の所内は、片やフランス言語に近代技術、片や幕府時代並みのお仕置きがあった、という。 写真は、最近の横須賀港の一部

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