石井 昭 著   『ふるさと横須賀』


子安の里 @  『ねがいごとかなう』
原文

東に大楠山、北に宝金山を背負い、西南に相模湾を見下す山なみに囲まれた子安へは、京急バス停「久留和(くるわ)」下車がいい。山あいの道を行く。左手に、庚申塔が七基、中には享保(一七〇〇年代)ころのものも。右下の流れは関根川。やがて、左にガソリンタンクがニつ。急を知らせ る鉄板を下げたはしごに、足を止める。昔は半鐘だった。いつの間にか左右の山が迫まる。右に 関根御滝不動尊。「ねがいことがかないます、おまいりください」の掲示と、絶えない花と灯明が印象的だ。初護摩修業は一月五日午後二時から。ここの水は万病に効く、とか。 さらに進むと、左上に庚申塔がニ基、右は天和三年(一六八三)、左は明和四年(一七六七)のもの。その先は、まず最初の分かれ道、左は久留和の里へ、子安は右だ。橋を渡ると、市水道局ポンプ所前、やがて分かれ道、ここから左回りで、里を巡る。旧家軽部一族の庵(いおり)だったという西行院を過ぎると、子安ならではの、たたずまいが続く。長屋門を左奥に見ながら、道は右折し、登りつくと、子安で一番高い丘、人呼んで「見晴らし台」という。空気がうまい。 帰りは炭焼窯を左に見て、急坂を下りると分かれ道。右角に庚申塔が元禄三年(一六九〇)のを含め、十一基建つ。「みさき道」の道標も。向かいの崖(がけ)の上には日清戦争の碑。 左へ下ると、右手に、馬頭観音八基と子供の墓四基。その先を右折、四季折々の草花を楽しみながら歩いて、もとのポンプ所前へ。  子安の人々は誠実そのものだ。こんなエビソードがある。今からニ十三年前の昭和三十五年十月、栃木県佐野市吾妻小学校の子供たちが、交通安全の手紙をつけた風船を五百個ほど飛はした。そのうちのー個が、この子安に落ちて、軽部千代さんが拾った。  たったー個の風船との出会いで、今なお、軽部さんと吾妻小の子供たちとの心の交流が続く。
原本記載写真
横須賀市秋谷の関根御滝不動尊は、京急バス停「久留和(くるわ)」から山あいの道をゆくと、まもなく右側に。いつも花と灯明が絶えないし、わき水は三浦半島各地から汲みにみえる。写真は、御滝不動尊。子安の里の入口である

子安の里 A  『23年間の心の交流』
原文

一個の風船との出会いで、栃木県佐野市吾妻小学校とニ十三年間も交流を続ける、軽部千代さん(70)にお話をうかがった。子安のほぼ中心部にお住まい。 「昭和三十五年十月十八日の午後、稲刈りの最中に風船を拾いました。『お父さん、お兄さん、スピードをださないでください。二年、人見一男』と手紙がついていました。それを送り返してあげたのが交流のきっかけでした。 あちらの冬は上州の空っ風、赤城おろしで厳しい寒さ。菜の花やスイセンを送りましたら、子供さんから手紙や作品をいただきました。あれから、校長先生は八人も代わられたが、私との交流は申し送られております。子供たちも・・・。 交流が始まった翌年に、六年生が修学旅行中、二台のバスで、家に寄られました。今年の春は、PTAの皆さんが、バスで六十人も。なかには、三十六年の時の女の子が母親になってみえて・・・。泣いておりました。二十三年間の手紙や作品をお見せしたのです。最近の修学旅行は、鎌倉の学生会館に宿泊されるので面会に行きます。一昨年三月の交流二十周年には、吾妻小に招待されました。一生、一度の花道でした。これまでテレビなどで放送されたので、校長先生は『最近は本校がマスコミで有名となり、校舎も新築された』と、お手紙に。 今年二月にも花を千本、目方で五十`送りました。夕べ『今度の校長先生からお手紙が来ない。これで終わりかな』とつぶやいたら今日、お手紙がまいりました。 『学校花壇、軽部園に碑を建てた。除幕式はしなかったが』とありました。私は病気をする間がありません。これまで栃木の子供さんたちに支えられてきました。本当の話です。」 縁側の日だまりで、軽部さんは「子供たちの手紙や作品は私の宝物。変わらぬ子供たちの純真さに泣けます」と、目をうるませる。 子安は、常に春である。里も、人々の心も・・・。
原本記載写真
昭和35年の秋、飛んできた風船が縁で、子安の里の軽部千代さんは、いまも栃木県佐野市立吾妻小学校と文通を続けておられる。写真は、交流20周年記念に招待された千代さん(和服姿)。(昭和56年3月3月、吾妻小学校で)

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